彼女にプロポーズされた話

 

仕事を終えて帰ってきたら、玄関に手紙が置いてあった。

 

偏差値70の高校に進学し、偏差値60の大学を卒業後、偏差値55の大学に編入学した現在偏差値4500のつじはピンとくるわけです。

 

 

「ははーん。プロポーズやな」

 

というのも、付き合って7年目となる彼女との2回目のデートで「俺、結婚願望ないから。」とガチガチにイキった発言をし、彼女をドン引きのドン底に陥れたわたくし、不肖つじは、あろうことか2年前、同棲を始めるころには、

 

「俺はプロポーズしたくない。逆にプロポーズされたい。」

などとのたまうようになっていたのである。

 

それからというもの、不定期にプロポーズをいつしてくれるのかという催促をしたりしていたのだが、最近になって、

 

「そろそろプロポーズする予定やから催促してこんといて。催促されたらプロポーズする気失せる。」

 

と、情緒が絶滅危惧種レッドリスト入りしている彼女から言われたのである。

 

 

話を戻す。

 

玄関を開けたら手紙が置いてあり、それはそのようないきさつから間違いなくプロポーズの手紙なのである。

しかし、すぐにおかしいと思った。

彼女の仕事はフルタイムで、朝は7時台に出て行き、帰りは早くても18時前だ。

つじは仕事場のデモクラティックスクールまんじぇの開校時間は9時〜15時で、その日も帰ってきたのは15時過ぎ。

こんな時間に手紙があるのはおかしくないか…?

朝には手紙はもちろんなかったし、早すぎるがもうすでに帰ってきてる??

 

まぁとにもかくにも手紙を読む。

……うーん、日頃の感謝的なことがつらつらと書いてある。

しかしその手紙の最後にはこう書いてあった。

 

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ネクスト レターズ ヒント」……?

 

 

 

え、めんどくさくない??

 

プロポーズにこんな謎解き要素いる??

最近彼女が、東大発の知識集団"QuizKnock"にゲロハマりしてるせいか??

 

と、同時にもうひとつの懸念が頭に浮かぶ。

 

 

 

彼女、部屋のどっかに隠れてんじゃね??

 

 

俺が逆の立場なら、絶対謎解きに狼狽する恋人を見たい。

彼女はおそらく仕事は早めに抜けてきていて、家のどこかに隠れてるはず。

でもサプライズをうまく成立させるためには、最後の手紙に行き着くまでに彼女を見つけてしまってはいけない。

 

かくして、手紙を探しながら、しかし彼女の隠れ場所を探り当ててはいけないという、つじの壮絶な冒険が始まった──

 

 

 

……とかなんとか言いながら、無事ヒントのカバンをなんとかみつけて第2の手紙を手に入れた。

そこにも色々と日頃のことが書かれており、そしてその手紙の最後には…

 

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これである。

 

いったい、彼女は何を望んでいるんだろうか。

俺はいつも言っていた。

プロポーズは「高層階にあるレストランで夜景をバックに膝をついて指輪パカッ」で頼むと…

顕在ニーズ無視しすぎや…

 

(ちなみに彼女の一番好きな漫画の一番好きなシーンに次の手紙が挟まっていたが、そのシーンは王子に部下が忠誠を誓うシーンである。「私(彼女)に忠誠を誓え」というふうにしか読めない。)

 

 

その後も土鍋の中冷蔵庫の中と手紙の旅は続き、なんとか彼女の方は見つけないまま、冒険は終着を迎えた。

 

そして最後の手紙の最後には、こう書かれていた。

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つじ、感激、ここに極まれり、である。

なんだかんだそれまでの手紙の内容(彼女からNGが出ているので紹介はしないが)にも嬉しさがこみ上げており、そしてついに、やはり、プロポーズだったという喜びがあった。

 

と同時に、この質問に返事をすれば、そのタイミングで隠れてる彼女が出てくるんじゃないか?と思った。

俺ならそうする。

 

よし、一緒にこの嬉しさを分かち合おう。

声に出して言った。

「はい。結婚しましょう!」

 

しかし、部屋はシーンとしている。

 

あれ?聞こえへんかったかな??

 

もう一度言った。「結婚しましょう!」

 

 

 

 

声だけが虚空に消えていった。

 

 

え??は??おらんの??

物置を開いた。こたつの中を覗いた。トイレも、ベランダも、いない。

 

 

 

 

ホンマにおらんやん。

 

 

じゃあ俺はこのテンションをどこに持っていけばいいのか。

返事はいったいどうすればいいのか。

 

読者のみなさんにはつじの気持ちが伝わりにくいかもしれないが、「さようなら、ドラえもん」で、のび太ジャイアンに勝ったあと、もしドラえもんが迎えにも来ず、家にもいないということを想像してもらえるとわかりやすいだろう。

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今見ても涙腺崩壊もののシーンだが、もしここで空き地にドラえもんが来ず、すれ違っていたらと思うとゾッとする。勝利した喜びを一番に伝えたいはずのドラえもんが、一人で這って戻った家にもいなかったら、のび太も間違いなく「え??は??おらんの??」と思うはずだ。

 

 

とりあえず彼女にLINEをする。

しかし気持ち的にはうわついてしまっているので、じっと待つということもできない。

仕方ないので、いるわけないが、近くのコンビニにいるかも!と思って、セブンイレブンを覗く。いるわけがない。

 

 

くそー、ホンマにどこや!?

 

 

…と思ったら、交差点の向こうから歩いてくる見慣れた人影あり。

彼女だった。

LINEを見て、家に戻ってこようとしていたのである。

 

ひとまず無事会えたことが嬉しかったが、いや、どこにいたん?と聞くと、

 

「近くのカフェで小説読んでた」らしい。

 

なんとこの女、自分に向けられたプロポーズの返事が虚空へと吸い込まれてる間に、アフタヌーンティーと洒落込んでいたのである。

 

 

絶対家に隠れてると思ったわ、と言うと、

 

「最初隠れてようと思ったけど、いつ帰ってくるかわからんし、時間無駄やから本読みに行った」とのこと。

 

 

効率至上主義の犬め。

まさに資本主義に侵された現代人の縮図である。ポストモダンにロマンはないのだろうか。(うまい)

 

 

などとグチグチ話しているうちに、家に帰ってきた。

荷物を置いたあと、さらにグチグチ言おうとしたつじの口を塞ぐように、

 

 

「で、返事は?」

 

彼女に聞かれる。

 

こちらとしては二度あることは三度ある、か?いや、三度目の正直?

ほんの少し前の自分の一人芝居を思い出して、顔がついほころぶ。

 

とりあえず今度は虚空に消えていくことはなさそうだ。

 

 

(おわり)